日本に帰ってこないウイグル人留学生(まこと&「京都新聞」2002年10月5日)
98年にトフティ・トゥニヤズさんという東大の大学院生が専門の中国史に関する論文を書くために故郷の「新疆ウイグル自治区」に一旦帰って資料収集をしていたところ、それが「国家機密の漏洩」に当たるとして中国当局に逮捕・拘禁、中国の裁判所から懲役11年の判決を言い渡される事件がありました。
本人は当然「無罪」を主張していて、東大や彼と親しい人達の間から彼の救援活動が起こったり、アムネスティも彼を「良心の囚人」として認定するなどの動きがありましたが、未だ釈放されず・・・。一日も早く解放されることを願っています。
隣国である中国の支配下に置かれている少数民族が受けている苦難を少しでも知ってもらうために、ある新聞記事を以下に引用します。
(トフティさんの顔写真。アムネスティのサイト)
「京都新聞」2002年10月5日夕刊
「帰らない大学院生−獄中から無実の叫び」
非情なガラスの仕切りで分断された二人は、ほほ笑みながら向き合っていた。米中枢同時テロからほぼ一年たった八月、民族問題で緊張が続く中国新疆ウイグル自治区の省都ウルムチにある第三刑務所の空気は熱く、乾いていた。
生き別れになってから四年半あまり。日本から訪ねてきた十三歳の息子の背は、自分より高くなっていた。「大きくなったな」。父親は優しく声をかけた。その目には光るものがあった。
一九九八年初め、東京・本郷の東京大学で学ぶ自治区出身のトフティー・タニヤズ(四二)は、専攻の歴史学位論文「中国の少数民族政策」を執筆していた。それに必要な歴史資料を収集するため一時帰国、自治区に滞在中に消息を絶った。
数カ月後、国家分裂を扇動し、国家機密を不法に入手しようとした容疑で逮捕された事実が、日本の知人らに伝わってきた。「何かの間違いではないか」と、驚きの声が上がった。トフティーは、ウイグル人独立運動を批判する穏健な立場で知られていたからだ。
トフティーは無罪を主張し続けた。しかし、九九年三月、懲役十一年の有罪判決を受け、翌年二月の控訴審で原判決が確定、現在も獄中の身だ。
マスコミに訴えたりして騒げば本人に不利になる。そんな情報に、東大当局など関係者が事件を内密にしていたため、明るみに出たのは今年初めだった。
息子と四歳の娘を抱えて日本に残されたラビヤ夫人(二七)は悲嘆に暮れている。「夫が新疆の独立を目指す確信犯の活動家なら、生命の危険をさらすのも覚悟の上。でも、身に覚えのないぬれぎぬで、ばからしくてやり切れない。もっと早く事件を公開し、世間に訴えるべきでした」
そして「日本人は優しく見えるけど、いざというときは、まず何もしてくれない。あの三人がいなければ、わたしたちはどうなっていたか」と続けた。
その一人、身元保証人の工業デザイナー、山口泰子は「乗りかかった船だから」と、日本に残された家族の生活の面倒を見ている。息子のウルムチ行きにも同行した。
あとの二人は指導教官の佐藤次高、岸本美緒両教授だ。「学者として、研究の自由は守らなければならない」・そう言って、トフティーの休学更新を大学当局に働き掛けた。二〇〇〇年二月には、国連人権委員会に中国司法当局の判決の不当性を訴えた。
人権委員会の恣意(しい)的拘禁に関する作業部会に提出された文書では、双方の立場が真っ向から対立した。
中国側は、こう主張して有罪判決の正当性を強調した。トフティーは海外の分裂主義組織と日本の反中国組織の資金援助を受け、中国から大量の国家機密を盗み出した。九八年に「シルクロードの秘密」と題する書籍を日本で出版し、中国の分裂を扇動したと。
佐藤教授は、資料収集は純粋な学術研究を目的としており、政治とは関係ないと訴えた。さらに、海外組織などが明らかにされておらず、問題の本も出版されていない、と反論した。
作業部会は昨年末、佐藤教授側の主張を全面的に受け入れた。有罪判決は、国家機密の拡大解釈による思想や言論の自由に対する侵害であり、世界人件宣言や国際人権規約A(市民的、政治的権利)に違反する。こんな判断を示して、中国当局に善処をもとめる勧告をした。
人権規約を批准していない中国に拘束力はない。でも、この勧告で国際的な支援運動に弾みがついた。
八月、アムネスティ・インターナショナル(本部・ロンドン)は日本支部の要請でトフティーを「今月の良心の囚人」に選んで、早期釈放を全世界に呼び掛け、ホームページに顔写真を載せた。
在京のある西側外交官は「日本人の名誉を救った三人」と、佐藤教授らの行動を賞賛する。だが、三人の懸命の努力にもかかわらず、国内の支援運動はまだ盛り上がりを欠く。
東大の学生が学友のために支援に立ち上がる気配もない。人権派とされる野党議員の秘書は「取り上げて中国との関係を悪くしたくないので」と尻込みした。
瀋陽事件で、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の亡命希望者に対し、日本の外交官が人ごとのように振る舞うのをテレビで見て、ラビヤは大きなため息をついた。山口や佐藤教授らは外務省が何もしない、と怒っている。
外務省中国課の人権問題担当者は「内政問題であり、双方の主張が食い違っている以上、日本政府は口をはさむことはできない。少数民族問題に中国は敏感なので、何もしないことが本人のためにもなる」と傍観の構えだ。
日本は九七年以来、国連人権委員会で中国の人権状況改善を求める共同提案国になるのをやめている。代わりに、中国と二国間の人権対話を行うことで合意した。人権対話はトフティーの問題を論議するうってつけの場になるはずだ。しかし「双方の日程調整がつかないため」(外務省当局者)過去二年半以上も開かれていない。
世界の政治犯を支援するアムネスティ・インターナショナルの日本支部は、1970年に設立された。その会員数はピーク時90年代半ばの約1万人から、現在は約7000人に落ち、寄付やイベント収入も減って、財政難に直面している。
「グローバル化で世界が狭くなり、人々の関係が国境を越えて密接になっているのに、外国での人権侵害は人ごとで、かかわりたくない。そんな意識が特に、若者の問で強まっている」と、日本支部の寺中誠事務局長は内向きになった日本に危機感を募らせる。日本支部はTEL0335186777
(西倉一喜)
<関連サイト>
・「トフティさんを救おう」(東大東洋史学研究室)
http://www.l.utokyo.ac.jp/~toyoshi/tohti.html
・トフティーさんの復学を求める会
http://www.monomono.jp/tohti_j/
・良心の囚人トフティ・トゥニヤスさん(アムネスティ日本支部)
http://www.amnesty.or.jp/campaign/imagine/action/case/poc.htm
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